冬うらら~猫と起爆スイッチ~
□179
 メイが、自分に触れたがっている。

 それが分かると、カイトの神経はちぎれ落ちた。

 全身が、火の玉か何かになってしまったような気がする。

 熱くて、自分でさえ手がつけられなかった。

 キスをされる。

 抱きしめられる。

 そんな風にメイが、彼を欲しいという気配を伝える度に、心の中の愛しさBOXの口が開いて、津波のように押し寄せるのだ。

 こんなにも自分の中に、誰かを思う気持ちが押し込められているとは、思ってもみなかった。

 いや。

 こんなに詰まっていたからこそ、失っている間、カイトはひどい状態になってしまったのだ。

 チクショウッ!

 また、つらい期間を思い出してしまって、それを忘れるようにメイを抱きしめる。

 もうあんな亡霊に、とりつかれたくなかった。

 いま、そこに確かに彼女がいるのだ。

 間違いないのだ。

 その事実を不安にさせられてたまるか、という気持ちを棍棒のように振り回す。

 全然、自分の身体が思い通りにならない。

 もっと優しく、もっと手際よくやれるはずなのだ。

 愛しい相手なのだから、傷つけないように優しく出来るはずなのに。

 飢えと乾きに襲われていた。

 栄養失調になるほど食べなかった時でさえ、こんな感触はなかった。

 食べ物になんて、興味もわかなかった。

 でもいまは、耐えられない。

 いますぐにでも、自分を彼女で満たさないと、どうなってしまうか分からなかった。

 荒れ狂う血の叫びのままに、カイトは彼女から衣服をすべて引きはがした。

 目の前で乱れる黒い髪。

 顔にかかるそれを払うこともせず、カイトは唇を奪った。

 震えた彼女を、布団の中に押し込めたのが―― 最後の理性。

 あとはもう。

 まだ獣の方が、よっぽどマシだったに違いない。
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