冬うらら~猫と起爆スイッチ~
●19
 頭が重い。

 泣くと、いつもその後にこうなってしまう。

 メイは、そっと顔を上げた。

 さっきまで隣にいてくれたハルコも、いつの間にかいなくなり、大荷物と一緒にカイトの部屋に置き去りにされていた。

 置き去りにされるばかりだ。

 捨てられた動物みたいな、悲しい気持ちに襲われる。

 一度、暗い方向に傾いた気持ちを元に戻すのは、すごく難しかった。

 カチャ。

 しかし、ハルコはそう長く、彼女を置いてけぼりにはしなかった。

 ドアが開く。

 彼女はトレイを持っていた。

 温かい匂いがする。

 メイは、重いまぶたで、ぼんやりと目で追う。

「おいしいアップルティーがあるのよ…紅茶は好き?」

 にっこり。

 ハルコが怒っている顔など、想像もつかない。

 どんな時も、その笑顔を浮かべているような気がする。

 メイは、コクリとうなずく。

 もう、たくさんのことを考えられるほど、頭に活力がなかった。

 カチャカチャ。

 リンゴの匂いが、部屋に渦を巻き始める。

 そのすぐ側にいた彼女は、ハルコの手をじっと見つめる。

「はい…」

 机の上の荷物を少しよけて、彼女の目の前に置いてくれる。

「ここの二人はコーヒー党だから、紅茶はほとんど飲まないの…しょうがないから、私用に用意しているのよ」

 1人でゆっくりしたい時に飲むの。

 ハルコは、紅茶を勧めてくれる。

 彼女は黙ったまま、それを取った。
< 84 / 911 >

この作品をシェア

pagetop