冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 変な朝食が始まる。

 食器が、2人分揃っていないのだ。

 だから、すごく妙な取り合わせの食器が並ぶ。

 今日――買いに行こうかなぁ。

 メイはそう思った。

 これから、時々かもしれないが、カイトがここに来てくれる可能性があるのだ。

 その時に、毎回こんな食器では大変である。

 せめて二人分。

 彼女はそんな風に考えていた。

 しかし、視線はカイトに注いだままだ。

 彼が、みそ汁に口をつけようとしていたのである。

 一口。

 少しの無言。


「うめぇ…」


 あぁ。

 メイは、もう何も考えられなくなった。

 ずっとずっと、聞きたかったその言葉を、ようやく聞くことが出来たのである。

 その言葉こそ、いま自分の目の前にカイトが存在するという、何よりの証拠でもあった。

 一人の食卓を知って、それがいかに寂しいものであるかを知った。

 ずっと、彼の『うめぇ』という言葉を探し続けていた。

 ようやく、そこにたどり着けたのである。

 じわっと。

 目の前がちょっと霞んだ。

 それが続かないように、ぐっとこらえる。

 朝ご飯の席で、いきなり泣いてしまったら変だと思われてしまう。

 しかし、カイトの視線がふっと向けられた。

 メイが、食事に手をつけていなかったからだろう。

 慌てて顔を下にさげて、同じようにおみそ汁に手を伸ばす。

 こんな幸せな気持ちを、ずっと忘れないようにしようと思った。

 昨日かえったばかりの大事なヒナに、ちゃんとその思いを食べさせようと思ったのだ。

 そうすれば、きっとヒナは幸せに育つ。

 いつかきれいな鳥になるだろう。

 きれいな鳥になった時は、カイトともっと幸せな道を歩いていけるのではないかと思った。

 いまはまだ、具体的なことは何も考えられなかった。

 本当に、始まったばかりなのだから。
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