冬うらら~猫と起爆スイッチ~
●182
 な、何で?

 朝食の席に一人取り残されてしまったメイは、呆然と彼の出ていったドアを眺めた。

 どう見ても、彼の表情の変化は、怒ったようにしか見えなかった。

 どの発言に問題があったのだろうか。

 いや、発言というほど、さしてしゃべっていない。

 可能性があるのは、『今日は、ゆっくりして行けます? もしそうなら、夕ご飯、腕を振るいますね』――その言葉だけだった。

 メイは、朝食を食べかけではあったが、驚きと心配で、それ以上先を食べ続けることが出来なかった。

 さっき自分が言った言葉を、もう一度じっくり考える。

 彼女は、今日一日一緒にいられるかどうか、予定を確認したのだ。

 ゆっくりしていけるというのなら、夕食を用意しようと思って。

 それを聞いてカイトが飛び出したということは。

 可能性1>今日は、仕事で大事な予定が入っていて、それを忘れていたので、慌てて飛び出して行った。

 可能性2>彼女が、この後もカイトを拘束しようと思っていることに気づいて、ムカついて飛び出していった。

 メイの頭で考えられる可能性は、この2つだった。

 2…。

 彼女は汗をかく。

 2番目だったらどうしよう、と。

 まだ1番目ならば、しょうがないことだ。

 彼が、休日でも仕事に出かけたりするのは、知っているつもりだった。

 時計を見ると9時くらい。

 普通の出社時間と言えば、確かにそうだった。

 2番目と考えるのは怖かったので、メイは1番目の理由に決めた。

 しかし、それにしては、あの怒ったようなオーラが気にかかるのである。

 何で…出てっちゃったんだろう。

 また一人、部屋に取り残されてしまった。

 いや、この家ではずっと彼女は一人だった。

 昨日から今日の出来事が、普通ではないだけ。

 しかし、一度彼と一緒にいることを覚えてしまうと、これがもう厄介なことに、途端に一人ではいられなくなる。

 カイトの体温を、身体が覚えてしまったのだ。
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