冬うらら~猫と起爆スイッチ~
□183
「今日は、ゆっくりして行けます? もしそうなら、夕ご飯、腕を振るいますね」

 メイがそう言った瞬間、カイトは頭をガツンと、岩か何かで殴られた気分だった。

 不意打ちの、彼女の発言だったのである。

 おかげで彼は、久しぶりの二人の朝食だというのに、一気にかっこんでから飛び出すハメになったのだ。

 昨日は、バスで街まで来た。だから、自分の車はない。

 通りでタクシーを止めて、まず自宅までかっ飛ばさせた。

 その車中。

 カイトは、ムカムカしていたのだ。

 彼女が、とんでもないことを言ったせいである。

 ゆっくりしていけるかどうか、聞かれたのだ。

 こんな屈辱はなかった。

 要するに彼女は、最終的には――カイトに家に帰れ、と言っていたのである。

 夜までは一緒にいてもいいけれども、夕食が済んだら家に帰って、翌日から普通の生活を送れ、と言ったも同然だったのだ。

 もう。

 カイトは、メイを二度と手放す気はないというのに。

 離れて暮らす気なんか、さらさらないというのに、そんなふざけたことを笑顔で聞いてきたのである。

 穏やかな気分でいられるはずがなかった。

 いままで通り、家まで連れ帰るのは可能だ。

 お互いの思いが、やっと通じたのである。

 そんなことは簡単なハズだった。

 しかし。

 もう、それではカイトの気持ちは済まなかったのだ。

 前と同じ生活に戻るだけなんて、とても耐えられない。

 たとえ思いが通じていても、彼らは社会的に何の関係もない他人のままなのだから。

 また、いつどんな事故が起きて、彼女が離れていくかもしれない。

 そうならざるを得ない事態が、起きるかもしれない。

 たとえ確率が、1%未満であったとしても、それでもゼロではないのだ。

 その現実が、激しくカイトを急き立て苛立たせ、怒らせたのである。

 メイとの間に、わずかの障害も欲しくなかった。

 となると、もう答えは一つしか見つからなかったのである。
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