冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「おいし…い」

 一口飲むと、ほぉっと身体の中に熱が浸透していくのが分かる。

 一気に血液にまで流れ込んで、身体を柔らかくしてくれているような。

 わざとなのか彼女の好みなのか、砂糖が入れてあって甘い。

 それが嬉しかった。

「そう? よかった」

 向かいの席に座りながら、ハルコも自分用のカップに手をつけた。

 お茶のおかげで、少しずつ落ちついてきた。

 まだ、頭はぼんやりとしているけれども。

 静かな時間だ。

 ぬるくなった最後の一口を飲んだら、カップをソーサーに戻す。

 その時に、陶器のぶつかるカチャという小さな音が生まれた。

 音に呼ばれて、ハルコが彼女に目を向ける。

「着替える前に…お風呂が先のようね…せっかく私が見立ててきたのに、そんな顔では映えないわ」

 彼女は立ち上がって、荷物を開け始めた。

 トリートメントだの洗顔だのが現れてくる。

「あの…でも…」

 どんなに落ちついてきても、この事態は彼女にとっては普通とは思えなかった。

 あっさり受け取るには、重すぎる。

 けれども、ハルコは有無も言わせぬ笑みを向ける。

 どこか、目が笑っていなかった。

「いいのよ…彼は、あなたを泣かすようなことをしたんでしょう? その代償としては安いものだわ」

 女性を泣かすなんて。

 ハルコは、笑顔を浮かべてはいたのだが、どうやら怒っているようだ。

 しかし、それは大きな勘違いだった。

「ち、違います! 私が勝手に泣いただけで…彼は…彼は…関係ありません」

 慌てて切り出したはいいけれども、最後の言葉に行くに従って、小さくなってしまった。

 彼の名前は知っているのに、メイはその名前をどう呼んだらいいかすら分からないのだ。

 少し驚いたような目で見られた。

「そう? それならいいのだけれども…女性の扱いがうまいとは、お世辞にも言えないから…」

 苦笑しながら、それでも彼女をバスルームに連れて行こうとする。
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