冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 そして――本当に、台風だった。

 うるさいチャイムの連打に、ソウマは玄関に急き立てられた。

 そして、ドアを開けたのだ。

 相手がカイトであるかを確認するより早く、白い紙が突きつけられた。

「書け!」

 声は、紛れもなくカイトのもの。

 最初は、借金の証文か何かだと思った。

 一瞬のことで、用紙の内容まで読めなかったからだ。

 突き出されて揺れる紙を、じっくりと眺める。

『婚姻届』

 彼の国語力に問題がなければ、用紙にはそう記載してあった。

 婚姻?

 オレとお前じゃ結婚は出来んぞ――そう茶化そうと思ったが、すでに「夫になる者」のところも、「妻になる者」のところも、文字が埋められていたのだ。

 カイトと。

 ソウマは、紙を乗り越えてカイトを見た。

 全身から、パワーと勢いを感じる。

 いつもの彼だった。

 いや、正確に言えば、ボロボロになる前のカイトと同じ生命体だ。

 その生命体を視線で乗り越えると、彼女がいた。

 目が合うと、混乱したような表情のまま、ぺこっと軽く頭を下げられる。

 ああ。

 全部分かった。

 分かったやいなや、ソウマは顔が緩んでしまう。

 ようやく――彼らは、心を通じ合わせることに成功したのである。

 正月明けから、メイが仕事に行っているのは知っていた。

 何しろ、その世話をしたのはハルコであり、承諾したのはシュウなのだから、ソウマの耳に情報が入ってこないワケがない。

 仕事に行き始めてから一週間くらいか。

 それで、この有り様なのである。
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