冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 ハルコが、横から用紙を覗き込んでくる。

 その表情が、ぱっと明るくなった。

 それが分かると、ソウマも嬉しくなる。

 彼女とは、確かに長い付き合いで、いろんなことを理解しているつもりだった。

 どうすれば喜ぶかとか、どうすれば困るかとかもちゃんと分かっている。

 けれど、こういうスペシャルな喜び方を見ることは、余りない。

 彼女の予想外の幸福が訪れたのだ。

 その予想外の幸福というヤツを、ソウマは時々探してしまっている。

 ただ、彼女を理解しているということは、彼女にも理解されているということで、なかなかそれが実現出来ないのだ。

 その笑顔を生み出したのが、自分ではないところが少し妬けはするが、目撃出来たのは嬉しかった。

 ソウマにしてみれば、可愛い弟のようなカイトも幸せになる。

 妻も幸せな気分になる――二重の幸せを感じることが出来たのだ。

 しかし、弟には弟への対応方法がある。

 その上、弟は問題児だった。

「やれやれ、お前が短気なのは知ってはいたが…ここまでとはな」

 まずは、軽いジャブを繰り出す。

 相手の眉が、ひくっと動いたのが分かる。

 どうにも好みの言葉ではなかったようだ。
 もちろん、分かって言っているのだが。

「ああ、ごめんなさい…お茶をいれるわね」

 さすがに、妻も現状を理解したようだ。

 少しでも長く、彼らを引き止めようと思ったのだろう。

 お茶の準備に立ち上がった。

 勿論、普通の接客の作法としては定番であったが、きっと彼女も話を聞きたくてしょうがないのである。

 一体――どんな過程を踏んで、この状態に至ったかを。
< 864 / 911 >

この作品をシェア

pagetop