冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 メイは、よく気がつく女性だ。

 身重の彼女を思ってか、手伝いに行こうとしてくれた。

 カイトには、勿体ないくらいの相手である。

「茶なんかいらねー! それより先に、これを書け!」

 しかし、短気のムシは、ハルコの好意と好奇心の芽を摘もうとした。

 ソウマは、あえて口をはさまなかった。彼女が反撃するだろうと思っていたのだ。

「お茶を飲まないと…書いてあげないわ」

 この発言には、思い切り笑ってしまった。

 カイトの顔が、絶句、という表情になってしまったからだ。

 痛いところを突かれてしまったのだろう。

 カイトの性格は知っている。

 そんなに沢山の人間と、懇意にしていないことも。

 だから、からかわれることを覚悟で、この家に書類を書いてもらいに来たのである。

 きっと、ほかに思い当たらなかったのだろう。

 それがまた、ソウマの心をくすぐった。

 おかげで、こんなに近くで、しかも早く、結果を見ることが出来たのだから。

「はっはっは、そうだな…どうせなら、昼メシでも食ってくか? 今日はオレがパスタをゆでるぞ」

 そこまで長居はしないことは知っていた。

 しかし、ついからかってしまいたくなるのだ。

 ギロッッ。

 怒り狂う一歩手前――そんなカイトに睨まれる。


 もう完全に、あのつらい時の影はない。


 ここにいる男は、一刻でもはやく、メイを自分のものにしたがっている、ただのエゴイストだった。
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