冬うらら~猫と起爆スイッチ~
●187
 両親のところではなかった。

 カイトに連れてこられたのは、ソウマの家だったのだ。

 メイにとっては、足を向けて寝られない家ナンバーワンだった。

 ソウマたちにからかわれる度に、カイトはいまにも噴火しそうな勢いだったが、それをこらえているのが分かった。

 いつもの彼ならきっと、相手を追い出しているか、自分が出て行くかしていただろうから。

 婚姻届のために――我慢しているのだ。

 ああ。

 どうも彼の態度への翻訳が、自分に都合のいいものになっているような気がしてしょうがない。

 どうしてもカイトが、自分と結婚したがっているように思えるのだ。

 こんな人だったなんて。

 一緒に暮らしてる時には、全然分からなかった。

 彼が恩返しというウソ(?)をついていたせいで、どんな優しさも、それを裏付けているにすぎないと思っていたのだ。

 けれど。

 そのウソがなかったと考えたら。

 メイは、ぷるっと首を左右に振った。

 やっぱり、自分に都合のいい考えにたどりついてしまう。

「でも…嬉しいわ」

 ハルコにそう声をかけられて、いま一緒にお茶の準備をしていたことを思い出す。

 はっと我に返って、隣を見る。

 彼女はお湯を沸かしながら、本当に嬉しそうな笑顔を浮かべていた。

 嬉しい?

 正直、メイはまだ混乱していたのだ。

 だから、その実感は全然ない。

 朝、ベッドの中でカイトの寝顔を見られた時、喜びよりも安堵の方が前面に押し出されていた。

 昨日起きた事件が、どれも夢でなかったということを、受け止めるので精一杯だったのである。
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