冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 だから、いきなり結婚と言われても、まったく現実味はなかった。

 どうしてこんなことになってしまったかさえ、まるっきり分からない。

 昨日と今日では、人生が逆さまにひっくり返ってしまった。

「本当にいいんでしょうか…?」

 実体のない人形を抱かされている不安で、メイはそんなことを言ってしまった。

 小さな声だったので、居間の人たちには聞こえないだろう。

「…カイト君と結婚するのが…いやなの?」

 彼女の不安が、伝染したのだろうか。

 ハルコが声とひそめて、少し悲しそうな表情になった。

「いえ! そんなことは!」

 慌てて否定したために、大きな声になってしまう。

 がたっと、居間のカイトが驚いたように腰を浮かしたのが分かった。

 何の話をしているかは分からなかっただろうが、心配と怪訝の入り交じったグレイの目が、まっすぐに彼女に注がれる。

「ははは、そんなに彼女が心配か? まあ落ち着いて、お茶が入るまでおとなしくお座りしてろ」

 ソウマのからかいに、カイトは怒ったように赤くなった。

 怒鳴り出すのではないかと心配したが、彼は横を向いてどすんとソファに戻る。

 もうソウマとは、口をききたくもないような表情だ。

 ハルコも、そんなカイトの様子にくすっと笑った。

 その音の方を振り返る。

 彼女にしか出来ないのではないかと思える、深みのある優しい笑顔が向けられた。

 心を奪われてしまう笑み。

「もう離れちゃ…ダメよ」

 穏やかな聞かせるような声。

 何度、この声に救われてきたことか。
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