冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 証人の欄を、ソウマとハルコが一カ所ずつ埋めてくれた。

 記入の終わった用紙を持って、再び役所に向かう道すがら。

 車の中は、ぶすったれたカイトの気配が伝わってくる。

 あの家での出来事が、どれもこれも気に入らなかった、という様子だ。

 でも、メイは行ってよかったと思った。

 でなければ、きっと婚姻届けを出しても、不安だっただろう。

 いや、いまでも不安がないと言えば嘘である。

 出してしまっても、きっと消えないだろうが、それでもハルコと話す前よりはいい。

 そうしているうちに。

 ついに。

 役所についてしまった。

 車が止まった瞬間に、ドキッと心臓が飛び跳ねそうになる。

 さっきまでは大丈夫だと思っていた気持ちが、いきなり違う方向に跳ね返るのだ。

 やはり、全然覚悟が決まっていなかった。

 カイトが車を降りようとする。

 反射的に、彼の方をぱっと見てしまった。

 気配に気づいたのか、カイトが中を振り返ってくれる。

 どんな顔で、彼の瞳に映っているのだろうか。

 でもきっと、この気持ちを隠しきれていないように思えた。

 確かに、カイトのことは好きだ。

 離れていたくない。

 でも、本当にそれでカイトはいいのか。

 彼は、自分と結婚するという道に、こんなに早く入って後悔しないというのか。

 本当に?

 普通なら、恋人から結婚までの期間は間があいている。

 その空間のひずみに起きるマリッジ・ブルーというものを、いまメイはこの短い時間で引き起こしていたのである。

 自分はいいのだ。

 でも、カイトは?

 後で後悔したと言われたら、彼女は絶対に立ち直れないのだ。


 胸が、ぎゅうっと痛くなった。
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