冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 バスルームを出てくると、ハルコが一度脱衣所に来たらしく、タオルや着替えが置いてあって。

 長い間タオルで髪を拭きながら、メイはぼおっとした意識を、バスルームに捨ててきたことを知った。

 身体中の血液が、さっき紅茶を飲んだ時よりももっとはっきり回っているのを感じる。

 何で、泣いてしまったの。

 そうなると、途端に恥ずかしさが襲う。

 あんな恥ずかしい騒ぎを、ハルコに見せてしまったのだ。

 初めて会ったばかりの人に。

 どうして、どうして、どうして?

 疑問という名の衝動に襲われながら――メイは、頭を拭いていた。

 別に、これ以上拭きたいワケではないのだが、考え事を始めてしまって、他のことに作業を切り替えられないのだ。

 原因を探そうとした。

 ハルコだ。

 あの微笑みが、意識でチラつく。

 彼女の登場で、自分の存在がひどく恥ずかしくなって悲しくなった。

 場違いに思えた。

 メイは、タオルの手を止めた。

 同じ気持ちが、また襲ってきそうになったからだ。
 思い出したのが、裏目に出てしまった。

 どうやら、バスルームに捨ててきた気持ちが、はいずり戻ってきたようだ。

 慌てて、ごしごしと目をこすった。

 また、バスルームに逆戻りするハメになど、なりたくなかったのである。

 今度こそ、この脱衣所にその気持ちを捨て、急いで着替えようとした。
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