冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 お茶はナシだと言われても。

 メイは、もじもじしながらソファに座っていた。

 カイトは、窓辺の方にいる。

 何かを手に握っていれば、もしくは、ほかにすることがあれば落ち着くというのに、今はそれさえ出来なかった。

 ただ、じっとしているだけ。

 何か、話しかけなきゃ。

 そう思っていたが、いい言葉なんか全部どこかに隠れてしまっている。

 いま口を開いたら、どんなマヌケなことを言うか分からなかった。

 向こうも。

 そう思っているのだろうか。

 ちらちらと、こっちの気配を伺っている気がする。

 でも、話しかけて来る様子はなかった。

 はぁ。

 ついに耐えきれなくなったメイは、深い吐息をこぼす。

 それにさえ、カイトがびくっとした反応を返してきたので、逆に彼女の方がびっくりしてしまった。

 緊張で、押しつぶされてしまいそうだ。

 何か話しかけなきゃ!

 もう、この空気に我慢できなくなった。

 いい話題がないかと、慌てて彼女は周囲を見回す。

 一つのドアが目に入って、そこに光明を見い出すことが出来た。

「お…お風呂! お風呂の支度しますね!」

 いきなり立ち上がると、メイはバタバタとバスルームの方に逃げ込んだ。

 今度は、手を捕まれるほど近くにいなかったのが幸いしたのか、止められなかった。

 急いでお風呂の掃除をする――と言っても、バスタブの方は使われていなかったらしく、きれいなものだ。

 軽く流してから、お湯を張り始める。

 その水音を聞きながら、彼女はお風呂場でぼんやりした。

 ここで戻ったら、またあの空気に耐えなければならないのだ。

 初めての、夜。

 きゃー!!! と、メイは走り回りそうになった。
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