冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 昨日の記憶も一緒に戻ってくるものだから、頭の中はとんでもない騒ぎになる。

 本当に、心臓が弾け飛んでしまいそうだった。

 半分ほどたまったところで、ようやくそんな心臓を抑えることに成功して、メイはゆっくりとした足取りで、部屋の方に戻って行った。

 しかし、そんな努力はカイトを見るなり吹き飛んだ。

 彼は――バスルームに入る扉の、すぐ前まで来ていたのである。

 目の前に、すぐカイトの身体があるのだ。

「あ…えっと…お湯もうすぐたまるので…どうぞ…」

 最後の辺りは、消えてしまいそうな音量になる。

 恥ずかしさが強すぎて、まっすぐに彼の方が見られないくらいだ。

「先に…入れ」

 うつむいたメイの視界で、彼がぐっと拳を作ったのが分かった。

 しかし、すぐに身体が反対を向いて、どこかに行ってしまう。

 顔を上げると、カイトの背中がソファに向かっているのが分かった。

 わざわざバスルームに近づいてきた、ということはお風呂に入りたかったのではないだろうか。

 彼女は、その背中をじっと見つめた。

 うまく翻訳しようとしたのだ。

「早く入れ!」

 動かない後ろの様子が分かったのだろう。

 背中を向けたまま、カイトは強い声を出した。

 弾かれるように、メイは脱衣所のドアの内側に飛び込んで、それを閉めた。

 どうやら彼女が先に入らないと、カイトはお風呂に入ってくれないようだ。

 おぼつかない指で、自分のブラウスのボタンをはずそうとした時。

 あることに気づいた。

 あっ!

 すっかり、忘れていた。


 メイは――パジャマどころか、着替えがなかったのだ。
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