冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 彼女が中に入って10分くらいか。

 いやに早い。

 もしかしたら、彼に気遣って早く入ってきたのではないか。

 そう思って、慌ててそっちの方を向くと。

「あ…あの…」

 どう見ても、そのドアの中に入った時と同じ姿のメイが出てくるではないか。

 髪も濡れている様子はないし、風呂上がりという感じは全然しなかった。

 疑問符が飛び交うまま、カイトは目を見開いて彼女をじっと見てしまう。

 一体、どうしてしまったのか、そう聞きたいのに、口は相変わらず動かなかった。

「あの…何か、パジャマになりそうなもの…貸してもらえます?」

 遠慮がちに――メイは、そう言った。

 あっ!

 そして、またカイトは己の気の回らなさに気づかされるのだ。

 そうだった。

 彼女を、強引にあの家から連れ出してきたのである。

 完全に身一つの状態で。

 それで、何も問題はないと思っていたのだ。

 足りないものは、いくらでもこれから揃えていけばいいのだから。

 なのに。

 今日を越えるための必需品が、彼女は何もないのだ。

 昼間に思い出しておけば、買い物に出た時に買ってきてもよかったのだが、あの時は、まだ冷静に考えられない状態だった。

 いや、今も似たようなものなのだが。

 とにかく。

 着替えさえない事実を、どうにかしなければ。

 ただし、気に入らないことがった。

 それならそうと、早く言えばいいのである。

 きっと彼女のことだ。

 この10分もの間、脱衣所のところで困っていたに違いなかった。

 そして、カイトにお願いするかどうか迷っていたのだ。
< 885 / 911 >

この作品をシェア

pagetop