冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 遠慮すんな!

 昼間、『もっと甘えろ』という衝動が起きたが、あれと同じものがまた首をもたげてくる。

 それに苛立ったカイトは、歩みを荒くしながら脱衣所の方に向かった。

 彼女の脇をすり抜けて中に入ると、引き出しを抜き取るなり床にひっくり返す。

 あ。

 また、既視感だ。

 昔同じことが――と、思い出す必要もなかった。

 やはり、彼女を連れて来た最初の日だ。

「あ! そんなに…あの、一つでいいですから!」

 戻ってきたメイが驚いた声をあげる。

 脱衣所の床には、彼のシャツ類がどさどさと落とされているのだ。

 これだけあれば、どれか気に入るのがあるだろう。

 カイトは、無言で部屋の方に戻りかけた。

 これからまた、彼女が出てくるまでおとなしく待っていなければならないのだ。

 イライラしながら。

 脱衣所のドアを閉めかけて、ハッと気づいたことがあった。

 振り返って釘を刺す。

「片づけんなよ!」

 その件に関しては、メイは前科モノなのだ。

 彼女が出てくるまでの時間が、余計にかかってしまう。

 おまけに、手間までかけさせてしまうのだ。

「え? でも…」

 見れば、既にシャツを拾い集めようとしていた。

 油断も隙もない。

「すんな!」

 カイトは、イライラを炎のように口から吐き出した。

 もう、彼女はそんなことはしなくていいのである。

 家政婦でも何でもないのだから。

 あ?

 しかし、カイトはいま、自分の考えたことに首を傾げた。

 何かおかしかったのである。
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