冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「でも…あの…その…これからは、私がこの家のこと…しないと…その…」

 メイは、戸惑った唇でそう言った。

 ガーン!!!!!

 そこで、カイトは気づいたのだ。

 そうだった。

 カイトは、彼女と結婚したのである。

 奥さんというものは、家によって多少の違いはあれ、家事などをするものではないのだろうか。

 ということは。

 メイに、家事という労働をさせることになるのだ。

 そこまで、深く考えていなかった。

 とにかく一緒に暮らしたい=結婚――その図式は間違っていないが、お互いの肩書きが変わることで、環境や生活の変化が生まれるのである。

 いままでは、「すんな」という言葉で防げたものが、これからは防ぎきれないかもしれないのだ。

 分かりやすく言えば、この散乱したシャツを、明日にはこびとが片づけてくれる、なんてことはないのである。

 ハ、ハルコが…。

 彼女がいる、と思いかけたが。

 状態を考えると、ほぼ不可能に近いことも分かった。ハルコは妊婦なのだから。

 汗がだらだら流れる。

 これから彼がちらかせば、それを片づけるのはメイだ。

 服を汚せば、洗うのは絶対メイなのである。

 カイトは。

 脱衣所の中に、足を戻した。

「どれか…取れ」

 床に山積みになったままのシャツをちらりと見て、彼女に指示を出す。

 このままにしておけば、片づけて出てくるに違いないと思ったのだ。

 だから、予防するつもりだった。

「え、あ…はい」

 慌てて丈のありそうなシャツを、一枚取る。

 残りのシャツを。

 カイトは、パワーショベルのように腕を回し、一度に抱え上げると、それの入っていた引き出しの中に全部つっこんだのである。

「え!」

 驚いた声をあげるメイを無視して、彼はそのまま押し込むような動きをしてから、引き出しを閉めたのである。


 彼女の方を向いて――言った。


「絶対、開けんな」
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