冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 10分とかからなかった。

 彼は、ずぶ濡れの全身を、タオルで急いで拭いた。

 まだきちんと拭き終えていないのは分かっていたが、どうしてもはやる心を抑えきれず、パジャマを着込んだ。

 ボタンなんかとめているヒマはない。

 メイは逃げないというのに、カイトの心は急いでいたのである。

 髪からしとしとと落ちる水滴が、パジャマの肩を濡らすのも気にならなかった。

 タオルだけひっかぶると、そのまま部屋に戻る。

 バタン!

 勢いをつけたものだから、ドアは大きな音を立てた。

 ソファに座っていたらしい彼女が、びくっと慌てて立ち上がる。

 それが、タオルの影から見えてほっとする。

 タオルで、がしがしと髪を拭きながら。

 しかし。

 次にどういう行動を取っていいのか分からなかった。

 食事も済んだ。

 風呂にも入った。

 となると。

 あと残っているのは。

 カァッと、頭が熱くなったのが分かった。

 そうなのだ。

 後は、寝るくらいしかすることはないのである。

 いや、普通ならゆっくり語らってみるとか、お酒を飲んでみるとか、いろんなことを想定出来たかもしれない。

 しかし、いまのカイトに、そんなゆとりあることは考えられなかった。

 何しろ――結婚して、これが初めての夜なのだから。


 初夜。


 どどーん。

 その文字が、いきなりフォント7倍角で、カイトに襲いかかってくるのだ。

 しかも3Dで奥行きがあって、まるで岩を切り出して作ったような文字だった。
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