冬うらら~猫と起爆スイッチ~
●193
 カイトがお風呂に行っている間、彼女にはやらなければならないことがあった。

 それは、かなり切実なことで―― そして恥ずかしく、いささかマヌケなことでもあった。

 でも、やらなければ自分が困ることである。

 タオルでくるんでバスルームから持ち出した、洗濯済みの下着を、どこかに干さなければならないのだ。

 そうしないと、明日の朝の着替えがないのである。

 しかし、カイトも寝起きするこの部屋に、下着を干すワケにも行かない。

 部屋を飛び出すと、前に自分が寝起きしていた客間の方に駆けて行く。

 カギが開いていることを祈りながら。

 ドアは開いていた。

 部屋は前のままだった。

 きっと、ハルコが片づけないでいてくれたのだろう。

 いつか彼女が、帰ってくるのだと信じていてくれた証のように思えた。

 出ていく時は、もう二度と戻れないと思った部屋。

 でも。

 彼女は、この部屋に帰ってきたワケではないのだ。

 カイトが拒まない限り、彼の部屋で生活することになる。

 その感慨に浸りかけたメイは、はっと我に返った。

 早く干して帰らないと、カイトが先にバスルームから出てきそうだったのである。

 前に、彼がお風呂の間に、シャツのしみを落とそうとした時、その失敗をしてしまった。

 あの時も、ひどく怒られた。

 きっと、今度も怒られてしまうのだろう。

 暖房の吹き出し口が当たるあたりに、恥ずかしいけど置いておくしかない。

 洗濯ばさみとかは下にあるのだ。

 そこまで取りに行っているヒマはないように思えた。

 そして、暖房をつける。

 自動で2時間後に切れるようにセットして、そこを出ようとした。

 その前に、ちらっとクローゼットの中を見ると、残していった服もそのままだった。

 とりあえず、明日の服には困らずに済むようだった。
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