冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 ベッドに、上がってしまった。

 お互い、ぎこちない態度になってしまって、気づけばベッドの上で向かい合う形になる。

 これから、どうすればいいのかなんて分からなかった。

 意識のすべてはお互いに向けているのに、最初にどう触れ合ったらいいのかさえ分からない。

 あっ。

 メイは、そこでハッと気づいた。

 まだ、自分はちゃんと結婚に対する挨拶をしていないのだ。

 カイトに対して。

 いくら婚姻届を書いたからと言っても、こういうことはちゃんとしていなければいけないように思えた。

 ええっと。

 こういう時は。

 大慌てで言葉の検索をかけると、幸いすぐにそれを見つけることが出来た。

 本当は。

 届を出す前に、言わなければいけない言葉なのだろうが、あの状況では思い出すことも出来なかった。

 ちょっと遅れてしまった挨拶。

 メイは、彼に手をついた。

 柔らかいベッドのスプリングが、彼女の動きを少し不安定にした。

「あの…ふつつかものですが…末永く…よろしくお願いします」

 ぺこり。

 多分、こんな言葉。

 間違っていないはずだ。

 頭を上げる。

 カイトは―― 動かなかった。

 驚いたような、呆然としたような表情で、固まったままメイを見ているのだ。

「変なこと…言いました?」

 心配になって、彼女はそう聞いてみた。

 やはり、挨拶としては遅すぎたのだろうかと心配になったのだ。

 ハッ!

 そんな風に、カイトの呪縛は解けた。

 ようやく目に力が戻って、でも、動かないまま彼女をじっと見る。

 戸惑いのグレイの目の色が、はっきりと見てとれた。

 そう。

 カイトは―― 戸惑っているのだ。
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