冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 決裂しかけたこと――2回半。

 1回はこっちが折れて、1回は向こうが折れた。

 残りの半分は、まだ決着がついていない。

 最後の半分のヤツを、向こうに折れさせようとしていた。

 要求を飲まない時は。

「じゃあ…ソフトは作らねぇ」

 会議室とは思えない口調だった。

 結局、その一言のおかげで、1時間も別室で待たされるハメになる。
 いきなり向こうが、社内会議に切り替えたのだ。

 カイトは、最後のタバコを灰皿に押しつけた。

 もう、夕方もいい時間だった。

 フン。

 これで、メーカーが「それじゃあ、なかったことに」と言い出したとしても、知ったことではない。

「しかし…」

 向かいの席に座るのは、シュウだ。

 応接室に静かに二人、というのも気色の悪いものだった。

 あの場所で即答しろ、とバーコード親父に詰め寄っておけばよかったと、後悔するほど。

 だからと言って、シュウとコミュニケーションを取っても、楽しくはないように思えたが。

「あん…?」

 ソファに行儀悪く背中を預け、脚を組み直しながら、カイトは気のない返事を投げる。

「あそこで、ライセンスの一般条文にまで口をはさむとは思いませんでしたよ…ちゃんと事前資料を読んでいたんですね」

 彼のセリフは、失礼なものだった。

「なっ…」

 ソファから、がばっと背中を起こしながら、向かいの席を睨む。

「ったりめーだろうが! オレが仕事してねーとでも思ってたのか」

 ぜってー、ナメてやがる。

 カイトは、時々彼についてそう思う時があった。

 しかし、それは勘違いである。

 シュウは、ただ素直にホメているのだ。これでも。
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