冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「あの…電気…」

 きっと。

 それは、彼女のお願いの声だったのだろう。

 こうこうと明るい室内。

 昨日平気だったのは、やはりお互い、感情と衝動だけで突っ走ったせいだろうか。

 カイトは、焦る動きで枕元に手を伸ばした。

 リモコンをつかむや、「全消灯」のボタンを押す。

 ぱっと。

 いきなり視界が暗転した。

「きゃっ!」

 自分が暗くしろと言ったのに、その変化に悲鳴のような声があがる。

「つけるか…?」

 心配になってそう聞く。

「あ…ううん。大丈夫…驚いただけ」

 そう言って、カイトの腕を探り当てるように触れてくる。

 その温かい感触が、彼の背筋をぞくりとさせた。

 まだ目が慣れない。

 だから、本当に手探りするしかなかった。

 自分がこれまで、いかに目というものに頼っていたのかが、はっきりと分かる。

 彼女が見えないというのは、こんなにも不安になるのか。

 指を伸ばして、そっと顔を探り当てる。

 信じられないくらい、柔らかい頬の感触だ。

 輪郭をたどると顎になる。

 そのまま、指を少しあげると――唇。
< 900 / 911 >

この作品をシェア

pagetop