冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「私は、数学が一番好きですが…あなた方のことに関しては、算数レベルで済んだようです」

 もう、いつもの表情に戻ってしまったシュウが、こともなげにそんなことを言った。

 算数。

 メイは、困った笑いを浮かべてしまう。

 もしかして、いつか「足し算」と言っていたのは、こういうことだったのだろうか。

 きっと、シュウにも彼らの気持ちがバレていたのだろう。

 ソウマたちも気づいていたようだし。

 本当に知らなかったのは、本人たちだけだったのだ。

「てめっ!」

 カイトが食ってかかろうとした時。

「あ…私は、予定に遅れますのでこの辺で」

 するり。

 カイトの追求をかわすように、シュウはダイニングを出ていってしまった。

 バタンと、彼の目前でドアが閉ざされる。

「くそっ…!」

 忌々しい声で、カイトはそれが吐き出した。

 荒い動きで、彼が自分の席に戻ってこようとした時――目が合った。

 あ。

 うまく、目をそらせない。

 普通の表情も出来ない。

 きっといま、赤くなってしまった顔を見られている。

 彼は。

 ぱっと顔を横に向けて、席に座る。

 その、そらした頬が微かに赤いのが分かった。

 きっと、彼もこの居心地の悪さを感じているのだろう。

 茶碗をがちゃんと掴む大きな手。

 その手が、どんどん朝食の残りを口の中に押し込んでいく。

 シュウが出るということは、もう彼にもそんなに時間に猶予はないということだろうが――急いでいるのは、それだけとは思えなかった。

 でも、うまく翻訳出来ない。

 照れ隠しだろうか。
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