冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 けれども、メイという存在は、ツボミのようなものだった。

 見たこともないツボミで、どんな花になるかも想像もつかない。

 だから、触れたかった。

 けれど、触れてはいけない。

 だが、触れたかっ――

 キキーーッッッッッッッ!!!!

 家の門に衝突する寸前に、車を急停止する。
 濡れた路面に、スリップしそうになった。

 イライラとリモコンを探して門を開けて。

 駐車場ではなく、カイトは玄関の前まで車を横付けした。

 バタン。

 気が焦るまま、彼は車を飛び降りる。

 全部荷物は置き去りだ。

 身体一つで雨の中、玄関先に駆け込むとドアをガンッと開けた。

 ドコだ。

 入るなり顎を巡らす。

 考えるまでもない。

 メイには、二階の部屋にいるように言っていたのだ。

 カイトは玄関を開けっ放しのまま、階段の方へと向かい、そのまま2段飛ばしで駆け上がる――その途中。

 二階から誰かが近づいてくる音がして。
 カイトは彫像のように、階段の途中で固まった。

 パタパタ。

 スリッパの音がするのだ。

 ドクンドクンドクン。

 背中から心臓が突き破りそうな音が聞こえる。

 誰あろう、自分の心臓の音だ。

 彼女が――来るのだ。

 それを思うと、自分でも信じられないほど、身体の中の血液が暴走した。

 息を飲む。

 階段のてっぺんに現れたのは。

「おかえりなさい…」

 にっこり。

 カイトは、はーっと気抜けした。

 ハルコだったのである。

 まだいるとは思ってもみなかったので、完全に対象から外れていたのだ。
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