貴方の想い運びます
「懍さん、どうかしたんですか?」
「え?あぁ、いや何でもない」
あまりに綺麗な笑顔だったので見惚れていたなどと誰が言えるだろうか。いや、誰も言えまい。
「変な懍さん」
「流石に失礼だぞ」
だから懍がこれしか返せなくても仕方がないことなのだ、と彼の名誉の為に言っておこう。
「そこの角を右に曲がればすぐだ」
「本当にお店の真後ろなんですね!!」
そうこうするうちに目的地である家に到着したようだ。
「うわぁ。お店もですけど、お家も綺麗ですね!!しかも3階建てだったんですね!!」
「とりあえず、後でじっくり見ることにして中に入らないか?」
「そっそうですね。すみません」
「だから謝らなくていいから」
「すみません」
「ほらまた」
「あっ」
「「......」」
「ぷっ」
「ははははっ」
「そんな...ふふっ笑わないでっ...下さいよ...」
「ははっいやいや文佳の方が...ははははっ笑ってるだろ...ククッ」
「というより懍さん...ふふっ...中に入らないんですか?ふふふっ」
「あぁ、そう...だなっははは」
懍が玄関のドアノブに手をかけた瞬間、ドアが急に開き...
ゴンッ
懍のおでこと衝突した。
「えっちょっ懍さん!?大丈夫ですか!!」
「......大丈夫だ」
「すっすみません!!懍さんたちの笑い声が聞こえてたんで帰ってきたのか確認しようかなって思って...まさかそこに立ってたなんて...」
「ま~も~る~君?」
ニコォ...
「ひいっ!!もっ申し訳ございませんでしたぁ!!」
すごい勢いで直角90度で頭を下げ、謝った守。のちに彼は「あのとき懍さんの後ろに阿修羅が見えた」と語った。