貴方の想い運びます
その部屋は時間の流れがゆっくりしていて、文佳は自然と落ち着くことができた。
「こっちへ」
懍に声をかけられたところでようやく、自分が部屋を眺めながらずっと立っていたことに気がついた。
「すいません」
「いや、構わない......俺もここのゆっくりした空気、というよりも部屋の雰囲気を、か。気に入っているんだ」
「そうなんですか」
「あぁ」
そのまま、二人の間には沈黙が流れた。けれど文佳は心地の良い沈黙だと感じた。何も言わず、微かに微笑んでいるところを見ると、懍もこの沈黙を気まずいものと思ってはいないようだった。
「......それで、文佳は何をあんなに困ってたんだ?」
「へっ!?」
ここまでのやり取りでここにきた目的を忘れていた文佳だったが、懍の一言で思い出したようだ。
「ごめんなさい、私ったら......これじゃ何の為に来たんだって言われますよね」
「いや、別に気にしなくていいさ」
「すみません」
「それで、困っていた理由を聞いてもいいか?言いたくないなら無理にとは言わないが...」
「そんな、言いたくないだなんて...実は...」
そして文佳は入ったばかりの会社が倒産したことや会社の寮に住んでいたために住む場所も失くなってしまったこと、両親は幼い頃に事後で亡くしているため頼れる人がいないことなどを話した。
文佳が話す間、懍は真剣に聞いてくれた。