貴方の想い運びます
「その方法、私に教えて下さい!!私はどうすればいいんですか!?」
「とっ取り敢えず、一旦落ち着いて」
余りの必死さに懍も慌てたようだ。
「す、すみません」
「まぁ、気にするな。それでその方法だが...」
「はい」
「君がウチの店で働けばいい」
「......はい?」
「だから、ウチで働かないか?ウチなら君の事情も、店長である俺が分かっていることだし、ウチの店は、今いるこの建物を俺を含めたスタッフの共同生活に使ってる。空き部屋がまだいくらかあるし、家具なんかは置いてあるから荷物を入れるだけですぐ使えるようになってる。どうだ?問題は全て解決するし、条件は悪くないだろう」
「...いいんですか?」
「もちろん」
「これからよろしくお願いしますっ」
こうして文佳は無事、新しい仕事と住む場所を見つけることが出来たのであった。
「て、店長」
「...呼び方は変えなくていいぞ。俺はこの店に、気に入った奴しか雇わないから、仕事以外の部分は緩いんだ。」
「はい...ところで、懍さん」
「何だ?」
「何で、さっきあんなに笑ってたんですか?」
「それか」
「それです。ずっと気になってたんです」
「いや、すごいと思ってな」
「すこい...ですか?」
「だって考えてみろよ。狭いとはいえそれなりに広いこの街で、悩んでいる文佳とそれを解決することが出来る俺があのタイミングでぶつかって、あまりに困った顔をしている君をほっとけず、話しを聞いてみようと思うなんて奇跡的な確率だと思わないか?」
「...確かに...」
「だろ?そう思ったら何か仕組まれてたみたいで笑えてな」
「本当そうですね...何かアレみたいです」
「アレってなんだよ」
「あの、アレですアレ。えっと...運命!!」
「運命?」
「ぽくないですか?」
「......ぽいな」
「ですよね」
楽しげに笑い合う文佳と懍は、この言葉通り運命によってこの店に導かれていたことに全く気づいていないのであった。