それでも朝はやって来る
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「あいつは、いったいどこに行ってるんだ!?」


携帯を片手に悠里が朝子に電話をかけていた。

なかなか繋がらない携帯に、苛立ちを覚え壁を拳で押さえていた。




普段、朝子になんて電話をしない。


する必要がないし、するほど遠くに居たこともない。




何度かけても、携帯からは留守を伝える機械音だけが聞こえてくる。



「…………悠里様」



真楯の顔なんか今は見たくなかったが、朝子から連絡が来ないという事態で協力せざるを得なかった。


「繋がらなくても位地は大体特定できます」


訳のわからない小型の機械を取り出して、真楯はソファの横のテーブルに並べ始めた。



「電源さえ入っていれば、大丈夫です。棗君の一件から、こんなこともあろうかとちょっと細工させていただきましたから」



画面の上で指をスライドさせながら、地図で位置を特定していく。


大きく息をはいて、悠里に伝えた。


「いまのところ、駅前のカラオケにいる……みたいですね…」


真楯がまだ言い終わらないうちに、悠里は飛び出していった。



「せっかちですね…。駅前のなんてカラオケ店か聞きもしないで…」



開けっぱなしになった扉を見ながら、真楯が呟いた。


画面を軽く叩くと、朝子がいる部屋の映像が写し出された。


「急いては事を仕損じる。

まだまだですね…、悠里様」



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