それでも朝はやって来る
緊張で喉がカラカラになって、水を飲もうとグラスに手を伸ばした。


うまくつかめなく、そのまま指で弾いて倒してしまった。


「すすす…すいませっ…!」


さっと真楯が受け止めてくれたので、こぼれた水は最小限で済んだ。


テーブルクロスの上にこぼれたことさえ分からないほどに、瞬間的に片付けてくれた。


ビックリして、慌てて席を立とうとしていると…

真楯が目で合図してくれた。


唇が、『ダイジョウブ』と言ってた。


朝子はそのまま席に座り直して、喉の乾きをゴクリと飲んだ自分の唾液でごまかした。



なんとも言えないピーンと張りつめた空気の中、なかなか悠里のお父さんを直視できないでいた。


大きな花瓶に華々と生けてある真っ赤なバラ越しに、悠里の父は口を開いた。


「単刀直入に伺うが、朝子さん。あなたは、あの橘の倅に誘拐されたそうじゃないか」


悠里の父の目が一層細められた。


「しかも、二日も一緒にいた…と。まだ純潔のままであると証明できるか?」


「ち…父上!」


あまりにも直接過ぎる表現で、悠里も声を荒げてテーブルを叩いていた。



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