それでも朝はやって来る
「お怪我はありませんか?」


初めて会ったときと変わらない笑顔で、真楯は笑っていた。


その笑顔を見ていたら、朝子も真楯の何が怖かったのかわからなくなってきた。


なかなか朝子は声がでず、無言で頷いた。


「さぁ、帰りましょう」


あんなに恐い思いをさせられたのに、何故か憎めない…

遅くなったから、送ってくれるという真楯の車までの道のりが、やたらと遠く感じた。


真楯先生は、さっきの…なんとも思わなかったのかな?

前を歩く真楯の綺麗に結われた髪が月明かりに照らされて、妖艶に光っていた。

朝子は自分の唇を指でなぞってみた。


(…悠里とは違う薄くて綺麗な唇…)


首をブンブンと横に振った。


最近、あのスケベ悠里のせいで欲求不満になっちゃったのかな、私…


「ブッ!!」


真楯が急に立ち止まったので、いきおい余って、真楯の背中に激突してしまった。

鼻のテンコを強打してしまった。


「大丈夫ですか?ちゃんと前を見て歩かなくては危ないですよ」

ひんやりした指先で鼻を触られた。

「少し…赤くなってしまいましたね」

困ったように笑った。
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