それでも朝はやって来る
気づくと朝子は、悠里の腕の中にいた。

悠里は棗の首を捉え、片手で軽々と持ち上げていた。


「手を出さなければ見逃してやるって言ったんだがな」

『八重樫の若僧か…貴様、こんなに良いものを独り占めする気か?』


棗が苦しそうに悶える、普通の人間だったらもう気を失っていそうなのに…


『全部とは言わん…せめてお前が食べ残した右足だけでも、わしに譲ってくれんか?』


「なんども言わせるな、俺は朝子を喰らうつもりなどない。お前たちと一緒にするな!」



刹那…



悠里の瞳が真紅に染まった。

炎を思わせるそれは、漆黒の闇に染まった棗の瞳を捕らえていた。

棗から蒼白い焔が上がったと思ったら、その場に倒れ込んでしまった。


「棗…君?ね、棗君!!」


まさか、死…んじゃったの!?

棗の顔から生気が抜けて青白くなっていた。


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