Sweet love from cake
「奥方たちには、この権利書のことは伝わっていなかったみたいだな」

……みたいだね。なんか私、だんだん話についていけなくなってきたかも。

話しながら、彼は作業を始める。
あ――あのクリームの泡立て方、叔父さんそっくり……。

権利書を出されても尚、私は半信半疑だった。でも、彼の作業を見てわかった。この人は叔父さんの弟子だ。間違いない。
だって、動作の一つ一つが叔父さんそのもので。つい最近まで見ていた叔父さんの動きを彼に重ね、私の頬を涙が伝う。

「味には自信がある。これを食べ、それでも不満だと言うのならば我輩は手を引こう。娘よ、食してみよ」

お皿に綺麗に盛り付けられた、フォンダンショコラ。叔父さんとはまた違った盛り付け方だけど、私、こっちの盛り付けの方が好きかも。

フォークで割ると、とろりとチョコレートが溢れ出す。
一口頬張ってすぐにわかった。この人の腕は本物だ。それに、私なんかよりもずっとずっと上手い。いや、私なんかの腕とは比較なんてできない……。

「おいしいです。本当に」
「そうであろう。これは、一番最初に先生に褒められた菓子であるからな」

得意そうに彼は言う。
あぁ、この人にならお店を任せられる。私はそう確信した。
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