君を探して
寒空の下、私たちは練習を中止して楽器の掃除をはじめた。

長い間手入れを怠っていた私のトランペットは、クロスで軽く表面をなぞっただけで、みるみる輝きを取り戻した。

タケちゃんは、トランペットの抜差管から水を抜きながら、

「オレ、慎先輩は今でも深月先輩のことを好きなんじゃないかと思うんですよねー」

とつぶやく。

「え?」

「オトコのカンですよ!」

タケちゃんが「オトコ」なんて言うと、なんだかおかしい。

「そんなことあるわけないじゃん。慎には、エリナがいるでしょ?」

「あれ-、先輩知らなかったんですか? エリナは慎先輩に振られちゃったんですよ」

「……え?」

「あの『事件』のすぐ後に告白したけど玉砕したって聞きました。まぁ、エリナはもう他のターゲットを見つけたみたいで、そっちを追いかけてるって噂ですけどね」

「そうなんだ」

エリナの傷はそんなに大きくないんだ。

なんだかほっとした。

だけど、てっきり慎はエリナと付き合うものだとばかり思っていたのに……。


「慎先輩が最後に部室に来たとき……3日くらい前なんですけどね。ずっと、深月先輩の手書きの楽譜を見てたんです」

「そうなの?」

「はいー。なんだか、その顔がすごく優しくて、2人が仲良かったときのことを思い出しちゃいました」

慎も、思い出がたくさん詰まった部室で、懐かしい過去に思いをめぐらせていたのかな……。

< 120 / 308 >

この作品をシェア

pagetop