君を探して
それは2ヶ月近く前のことだった。

部活を終え、着替えをしていたときに、オレは異変に気づいた。

「あ、教室に財布忘れた」

制服のポケットに突っ込んでいたはずの財布がない。

そう言えば、昼休みにジュースを買ったあと机の中に入れたな……。

オレは、隣で着替えていた親友に「ちょっと財布取ってくるから待ってて」と言うと一人で教室へ戻った。

廊下は薄暗い。
階段にも、廊下にも、人影はなかった。

明かりのついていない教室のドアに手をかけたとき、中から人の声が聞こえてきた。

「もう、どうして分かってくれないの?」

深月の声だ。

ドアの隙間から中をのぞくと、こちらに背中を向けた深月と、向かい合うように立っている慎の姿があった。

(痴話ゲンカかよ……)

めんどくせーな、と思いながら、オレはドアの陰に隠れた。

こんなときはいつも、理由はどうであれ、慎が深月をなだめることになるのは分かっている。

だから深月が機嫌を直すのは時間の問題だ。

もう少し様子を見てみるか……。


だけど、話は想像していない方向へ進んだ。
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