君を探して
あの日……陽人が慎を殴った日も、深月は弱音を吐かなかった。

部室でも、
陽人の部屋でも。

目の前の出来事について行けなかったのか、

自分を見失わないように必死だったのか。

そんな深月の姿がオレを迷わせた。


あれは陽人の家からの帰り。

下まで見送ってくれるという深月をエレベーターに先に乗せたときだ。

ふわっと、深月のシャンプーの香りがオレの鼻腔をくすぐった。

深月にぴったりの柑橘系の香りだ。


エレベーターの小さな空間の中に、深月と2人。

深月はすぐ目の前で、パジャマにカーディガンを羽織って、少し寒そうに体を縮め、エレベーターが1階に到着するのを待っていた。
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