君を探して
いっそのこと、このまま深月を抱きしめてしまおうか。

“オレ”の正体は自分なんだと白状して、
お前が好きだと、
慎の事なんて忘れてしまえと、言ってしまおうか。

……そうできたら、どんなに楽だろう。


だけど。
オレは気づいたんだ。

深月が、カーディガンのポケットにずっと手を入れていることを。

その手の中には携帯があって“オレ”からのメールを心待ちにしていることを。


……深月は、“オレ”を必要としている。



「……本当にありがとう」深月が、何か言っていた。

だけど、オレはそんな深月の話を聞く余裕がなくて、少し引きつった笑顔を返すことしかしてやれなかった。


エレベーターはそのまま1階についた。

オレは深月に声をかける。

「慎よりいい男なんていっぱいいるからさ」
「……うん」
「あんな女にフラフラするような奴、ほっとけ」

これが、オレの精一杯だった。

「ありがとう」

深月はやっぱり笑ってそう言った。


オレは、深月に背を向けて駅へと歩き始めた。

一つ目の角を曲がり、深月の視界から消えると、オレは駅へ向かって駆けだした。

急げば次の10時すぎの電車に間に合うかも知れない。


早く……!

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