君を探して
その日の放課後、部室に顔を出すと、いつもと違って人が集まっていた。

1年生が机を部屋の端に寄せ、中央の開いたスペースに椅子を3列、半円状に並べている。
その奥には既にティンパニなどの打楽器がセッティングされていた。

そしてその半円の中心には、小さな指揮台と大きなスコアスタンド。
ここは、滝田先生の定位置。


『滝田なんてどう?』

私はお昼休みのヤマタロの話を思い出して、ドキッとした。

……イヤイヤ、違うから!

自分で自分に突っ込みを入れる。


そのとき、タケちゃんが私に気づいて走りよってきた。

「せんぱーい! 今日は滝田先生が指揮してくれるって!」

普段は楽器ごとに分かれて個人練習やパート練習。
そして滝田先生の時間が空いたときは、こうやってすべてのパートが集まって合奏を行っている。

「それで今日は人が集まってるんだね」

滝田先生がタクトを振るぞと一声かければ、いつもは閑古鳥が鳴いている部室もにぎやかになる。

みんな、滝田先生を尊敬しているし、なによりこの「合奏」が好きなのだ。


「でも、最近みんな練習不足だから、先生に怒られちゃうんじゃない?」

「そうですよねー、うわーどうしよう!」

そういいながらも、タケちゃんはどこか嬉しそうだ。


「よしっ、早く準備しちゃおう!」

なんだか私も嬉しくなって、人であふれる部室の奥へ進み、準備にとりかかった。
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