君を探して
「なに?」

滝田先生はこちらを振り返って優しく笑う。

「あのね……先生って、今朝の風紀検査のこと、いつから知ってたの?」

「あー、あれ?」

滝田先生は苦笑いをした。

「今朝だよ」

「え?」

「今日は早めに学校に来て合奏の準備するつもりだったんだけど、職員室についたとたんに山室先生につかまっちゃってさぁ」

山室っていうのは体育教師だ。

校則厳守とか抜き打ち検査とかが大好きな熱血教師で、まさに滝田先生とは正反対。

「山室先生に『いいところに来た! 先生も一緒に行きましょう!』とか言われてそのまま腕を引っ張られて、正門に連れて行かれたんだよ」

「そうだったんだ……」

山室先生に強引に連行される滝田先生……

うん、想像できてかなり楽しい。

「俺みたいなのが正門に立ってたから、驚いたんだろ?」


……この話が本当なら、昨夜の時点でまだ検査のことを知らなかった滝田先生は“シロ”だ。

私はなぜかホッとした。


「俺、そろそろ行くぞ」

「うん。ありがとう、先生」

私は先生の背中を見送った。
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