君を探して
「いってー……」

陽人が部室を後にすると、尻もちをついたままだったヤマタロもゆっくりと起き上がった。

ヤマタロは、目の前の慎とは決して視線を合わせようとせず、その奥に立っているエリナに顔を向けた。

「なに携帯にぎりしめてんの?」

いつもは人当たりがよくて、特に女の子には優しいヤマタロなのに、今は冷たい声。

エリナを見ると確かに携帯を開いたままぎゅっと握り締めている。

「警察にでも電話するつもりだったの? こんな時に、余裕あるね」

……怒ってる。
間違いなく、ヤマタロは怒っている。

エリナはわっと泣き出して、その場にうずくまってしまった。

部室の入り口で見ていた後輩たちがエリナのそばに駆け寄る。

そんなエリナの姿にも動揺せず、ヤマタロは私のほうに向き直った。

その目はいつもと違って真剣だ。

「さっき、グラウンドから、こいつらがキスしようとしてるとこが見えたんだよ」

慎とエリナを交互に見るヤマタロ。

あぁ……そうだったんだ。
それで陽人は怒ったんだ。

慎は、微動だにせずヤマタロの話を聞いていた。

「最近いろいろ目に付くことがあってさ。それでも俺たちが口を出すことじゃないと思ってずっと黙ってたんだけど……」

「……」

「……さすがにさっきのは、きつかったわ」

ヤマタロは、そばで座り込んでいるタケちゃんに手を差し出して立たせた。

そして、すっかり萎縮してしまったタケちゃんに、小声で「怖がらせて悪かったな」と言った。

タケちゃんは全身を震わせながら楽器を慎に手渡すと、そのまま部室を飛び出していった。

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