君を探して
「ねえ、東雲」

私が声をかけると、東雲が背筋をピンと伸ばしてこちらを向く。
……といっても、目線は空中を彷徨っているんだけど。

「な、な、何?」

「今朝、学校に来る前、何してた?」

すると、東雲の顔がぱぁっと明るくなった。
そして嬉しそうに語り始める。

「今日は朝5時に起きたんだ。タワーの……あっ、タワーというのはうちのパソコン……セカンドマシンのことで、そいつのマザーボードとCPUを交換していたんだけど、電源を入れてもBIOSが起動しなくなって困って……」

困ったというわりにはものすごく嬉しそうな表情で話してくれるんだけど、私にはなんのことだかさっぱり分からない。

まったく、自分の守備範囲のことなら、こんなに流暢に話せるんだから。


「あー、わかったわかった、もういいよ東雲。ありがとう」


うん。分かったよ。
東雲はシロっぽいってことが。

東雲はまだ話し足りないみたいで、寂しそうな目でこっちを見た。

でも、少し呆れ顔をしている私と目が合うと、慌てて視線をそらす。

「そ……それが……何か?」

「ううん、気にしないで。今朝、私にメールなんて送らなかったよね?」

「は、はい……」

「うん、だったらいいよ!」

東雲は本当にわけが分からないという顔をしている。


……これは違うな。

だって、もし東雲が“オレ”だったら、少しはうろたえるはずだもん。

こんな器用な演技ができるなんて、東雲に限って、絶対ありえない!
< 9 / 308 >

この作品をシェア

pagetop