彼等の物語
 暗い、暗い、自分の腕や足すら見えない空間から、遥か彼方に見える小さな光に向かって、自分が浮かんでいくような感じがする。
 いつもと同じ。夢の後は必ずこうなる。
 そう思っている間にも、俺は尋常じゃない速さで光へと近づいていく。
 光は、もう小さな光じゃなく、俺を包み込んでしまうぐらい大きな光になっている。その光に到達すると俺は晴れて目覚める事になる。


 ジリリリリ…と、無機質な目覚まし特有の音が聞こえる。
 それを止めようとする、……するだけ。寝起きはダルくて少し時間をかけないと、俺の体は動いてくれない。だけど、音を止めて起きないと遅刻してしまう。
 そんな葛藤の後、いつものように『遅刻』とゆうワードに負けて無理に体を動かし起きる。これが辛い。辛いなら目覚ましを少し早めに設定しておけばいい、なんて事を言う奴がいるが、それは駄目だ。まだ時間があると思って二度寝して、遅刻する。体験談。
 色々と思考を巡らしている間に体を起こして伸びをしながら時計を見る。
 只今の時間、AM8:00。
 ……歯を磨いて顔を洗って制服に着替えて駅に向かって電車…。
 そこまで考えて、止める。どう考えたって時間が足りない。
 ようするに――
「……遅刻だ!」
 遅れて気付く。
 今日は、9月1日。
 夏休み明けの登校日。
 俺、綺羅 星夜は、まるで漫画や小説の主人公よろしく、休み明けに遅刻する。
 後悔はするだけ無駄だと感じて、俺は自分で出せる最高のスピードで用意を始めた。
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