彼等の物語


 ブツっと小さな音の後、軽く割れたチャイムの音が校舎内に鳴り響く。
 待ちに待った制裁の時間。休み時間だ。
「終わった!星夜、購買行って何か食おうぜ!」
 いつの間に来たのか、鏡螺は俺の机に手を置き馬鹿面を目一杯見せつけながらそう言う。
 寝坊した為、朝飯を抜いてきた俺は鏡螺の提案にのろうと思う。
 しかし、その前にやらなければいけないことがある。
「いいけど、その前にちょっと目を瞑れ、鏡螺。良い物やるから」
 俺がそう言ってやると鏡螺は目を輝かせながら頷き目を瞑る。
 改めて思う、こいつは馬鹿だ。
 そんなこいつの馬鹿さに感謝しつつ、右手を限りなく固めて馬鹿の頭に振り降ろす。
 手首に響く衝撃に感じながら鏡螺に、「授業中の仕返し」と言いながら購買へと足を向ける。当の鏡螺は頭を抱えて悶絶中。
 もちろん俺はそんな事気にせず、昼飯も買おうか悩みながら教室を出た。





 時間の流れは早いもので、今はホームルーム。これが終われば帰れる。
 そのせいか、周りからはこの後の事の話し合いをしている声が聞こえる。
 「カラオケに行こう」や「ゲームセンターに行こう」など、健全な高校生らしい会話の中に混じる事なく俺はそそくさと帰りの準備をしている。
 理由としては手持ちの金に余裕がないからだ。二限目の休み時間の購買に行ったのが悪かったらしい。どのみち遊びになんて行く気なんてなかったから別にいいのだが。
「星夜、どこか寄ってくか?」
 そんな俺のお財布事情を知っている筈の鏡螺から、俺の神経を逆撫でするしかない質問を投げ掛けてきた。
 後ろを向き鏡螺を見てみると、楽しそうに嫌味ったらしい笑顔を俺に向けていた。
「また殴られたいのか?」
「ごめんなさい。痛いから勘弁」
 俺が満面の笑みで苛立ちを隠しつつそう言うと、鏡螺はすぐに頭を下げた。速すぎて頭を下げたのが分からないぐらいだ。
 そんな鏡螺に感心している間にホームルームも終わったらしく、生徒達がぞろぞろと教室を出始めた。
 帰ろうと思い、荷物を持ち下校する生徒達の群れに混ざる。未だに頭を下げている鏡螺を置いて。
 さて、いつ気付くだろう?
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