シーラカンスの唄


(…っていうか…。私、何してるんだろ…。)

会社でパソコンに向き合いながら思わず溜息をつく。
電車さえ出なければ、危うく仕事もサボるとこだった。

¨他人の空似¨に決まってるのに…。

解っていても…
気になって仕方がなかった。


¨忘れる事としまう事は違う¨


どこかで聴いたことがあったけれど、私も忘れたのではなく、しまっていたのかもしれない。

(ダメだな…。)

自分に自分で溜息が出る。

それにアイツに会えたとしたって、もしかしたら私なんて覚えていないかもしれない。
アイツは昔から嫌な記憶なんて消してしまう奴だったから…。
私も嫌な記憶、かもしれない。


─…ブルッ。

(あ…。)

考え事をしていて、ついに仕事の手が止まった時、携帯にメールが入った。

《ごめん、今日ちょっと遅い。》

(…翔ったらマメなんだから…。)

そう…いつもそう。
文章は短いけれど、彼は必ず連絡をくれた。

そこも¨アイツ¨とは違う。
¨アイツ¨は、気付けば2、3日は当たり前、下手すれば1週間メールが来ない事もあったし…。

(…って比べるわけじゃないけど。)

〈大丈夫。気をつけて来てね。〉

…そう返信をして、私は仕事へ戻った。



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