シーラカンスの唄


「朱香、変わんないね?」

そう言って重樹は苦笑しながらコーヒーを手に取った。

「そ、そうかな?」

「うん。だって、ココア飲んでるし。」

そう言いながら笑う重樹の顔は本当に昔のままで、思わず眼を反らす。

「だって、ココア、美味しいもん…。」

そう言われてみれば、昔から、私は必ずココアだった。

夏でも冬でもココア。
もちろん、重樹の隣でもココアばかり。
¨またココア?¨
…と、昔は何度も笑われた。


「…でも、ちょっと可愛くなったね。」

「え……?」

聞き慣れない言葉に顔をあげると、ちょっと照れ臭そうな重樹の笑顔があった。

「こんなに可愛くなるなら、別れなきゃ良かったなって。」

「………。」

「…なんちゃって。」

言葉をなくした私に、彼はまた笑顔を見せる。

昔と変わったのは重樹の方だった。
前の重樹なら絶対そんな照れ臭いことは言わない。

「重樹は…ちょっとだけ変わったね?」

「そ?」

「うん。そんな事平気で言うし。コーヒーだし。」

(…昔は一緒にココアだったのに。)

「うーん。まぁ…大人になったってことで?」

彼はそう答えて、少し照れ臭そうにコーヒーを飲んだ。


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