シーラカンスの唄
………ブルッ。
そのままのんびりと昔話をしていると、不意に携帯がなった。
(なんだろ……?……あ…。)
画面を見ると、受信メールが1件。
翔からのメールだった。
《まだ仕事?》
(…………しまった。)
重樹に会って、すっかり忘れていたけれど、今日は昨日の埋め合わせに翔が家に来るはずだった。
時計はすでに8時。
いつもの私なら、とっくに仕事が終わって、家でくつろいでいる時間だった。
「どうした?」
異変に気がついた重樹が、心配そうに私を覗き込む。
「携帯、家から?」
「あ……。えと………。」
「じゃ、帰ろうか。」
戸惑う私を余所に、彼はパパッと身支度を始めた。
*
帰りの電車に乗りながら、今日の事を思い出す。
「はい。」
「え…?」
「一応、俺の連絡先。別に変えてないけど…。」
帰り際にそう言いながら渡された紙を見ると、アドレスは本当に昔のままだった。
(…いつでも連絡出来たんだ……。)
重樹と別れてから、彼の携帯の着信音が変わって。
完全に¨他人¨になるのが怖くて。
連絡もしなかった。
だけど…
一度繋いだ手は切れてはいなかった…。