シーラカンスの唄

■■



《ね、朱香、次の土曜暇?》

翔とは連絡が取れなくなったというのに、重樹からは毎日連絡が届く。
昔、2日も3日も連絡が無かったのが嘘のよう。

〈空いてるけど…。〉

《じゃ、朝迎えに行くよ。》

一瞬、見間違いかと思った。

《出掛けよ。車出すよ。》

だけど、見間違いではないみたい…。
しかも車??
昔はバイクだったのに…。
そう言えばバイクを買い換える時、社会人になったら車って言ってたな…。

《朝、9時頃行くよ。》

〈わかった。〉

《可愛いカッコでね…なんちゃって。》

"なんちゃって"…って聞くとやっぱり重樹なんだけど…。
少し違う。
昔はこんな事、絶対言わなかった。

〈はいはい。〉

《じゃ。》

断れず約束してしまったし…。
そもそも私…断る気、ないんだろうな。

どうしよう。
翔とは離れてしまうのに。
本当にこれでいいの?

そう思いながらも、嬉しくて…
夜はなかなか寝付けなかった。

その夜の夢はよく覚えてないけれど、シーラカンスが哀しい歌を唄っている気がした。


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