シーラカンスの唄
「朱香、おはよう。」
「おはよう。」
土曜日の朝、本当に予告通りに彼は現れた。
しかも車で。
「重樹、寝坊しなかったんだね。」
昔は朝が苦手だったくせに。
隣で起こしたって起きなくて。
バイトだって遅刻常習犯。
そんな彼が約束時間より前に現れた。
「キッカリだよ。」
そう言って彼は得意げな顔で腕時計を見せた。
「あ……。」
その時計は二人お揃いのモノ。
昔は仲よく時を刻んでいた。
見せはしない…けれど。
私の手元にも同じモノが今日は付いていた。
(まだ持ってたんだ…。)
同じモノ。
嬉しい…はずなのに。
どうしてなんだろう。
この気持ちはなんだろう…。
「ま、いいや。乗って。」
考えて立ち止まっていた私に重樹は笑顔で乗車を促す。
隣に乗ってシートベルトを付けると、車は懐かしい曲を奏で始めた。
昔、二人が好きだった歌ばかり。
そのまま、優しい海の横を走って行った。