シーラカンスの唄


しばらく海の横を走ると、何処かで見た場所に来た。

「………。」

「朱香、好きでしょ。」

重樹は笑顔を見せた。
確かにココは私の好きな場所。

でも……。
ココはついこの前、翔と二人で来た水族館だった。

「…?どうかした?」

私ったら何も言わずすごい顔をしてたんだと思う。
重樹は心配そうな顔を覗かせた。

「何でもない…。」

言えるはずもない。
作り笑顔を見せた。

「??行こうか?」

そう言って重樹はサクサク前に進み出した。


中に入るとこの前と変わらずに魚達は楽しそうに水槽の中で好きに泳いでいた。
そして奥に進むと、やっぱり同じ場所でシーラカンスは待っていた。

「居た居た。」

重樹は嬉しそうにシーラカンスの前に立ち止まる。

「これがシーラカンスだよ。」

「…うん。」

「…。なんだ、朱香ならもっと文句言うと思った。」

反応の薄い私に対し、少々不満そうに重樹は口を尖らせた。

「……うん。」

でも、私は何も言えない。
心が痛い。

ちょっと前まで、翔と話していても重樹の事を考えていた。
だけど。

今日は重樹と居るのに心に浮かぶのは翔ばかり。
シーラカンスも哀しい目をしていた。


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