シーラカンスの唄


(…シーラカンスもきっと唄うと思うんだけどな…。)

クジラやイルカの唄だって、最初は誰も気付かなかったんだし。
シーラカンスは深い所に居過ぎて…
誰にも気付かれていないだけなんだと思う。

だけど…。

もしもシーラカンスが唄うとしたら、どんな唄なんだろう…?

そのまま、壁に掛かっているシーラカンスの絵をぼーっと眺めていると、不意に¨ある人¨を思い出した。

(¨アイツ¨なら…?)

海や地球が大好きだったアイツなら…
シーラカンスが唄うって話も笑わないかもしれない。


          *


¨アイツ¨との出逢いは大学の時。

バイト先で出逢って、学部は違うけど大学も同じ。
学年は私が一つ上だけど、アイツは私よりしっかり者だった。

          :
          :

「俺、今度海に潜るんですよ。」

「何、いきなり…?」

バイト中、CDのコンポをしながらカレはレジの中で不意に話し出した。

「や、あんまり嬉しくて、つい…。」

そう言ってニッと笑う。

「ふうん?」

「先生に付いてって、しんかい6500に乗せてもらえるんですよ。凄くないですか?」

「……なにそれ?凄いの?」

「……。」


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